金融政策の二面性 ── デメリット篇
物価だけが上がり、賃金は追いつかない。実質賃金は下がり、消費支出は最大の落ち込み。円安で輸入品も値上がり。量的緩和を懸念する側の論理を、データと共に描く。
連載 3/4。2/4 メリット篇 の続きです。
「緩和は資産価格を上げるだけで、賃金には届かない」── この前提から見ると、量的金融緩和 には深刻なデメリットがあります。
反対派の論理はとてもシンプルです。賃金が増えて消費が増えなければ、景気は良くならない。賃金が上がらないまま物価だけが上がってしまえば、人々は今までより商品を買えなくなる ── 緩和は「景気回復」どころか「生活悪化」になる。これが反対派の出発点です。
実質賃金は下がり続けている

物価が上がっているのに、賃金の上がり方がそれに追いついていません。これが 実質賃金の低下 です。
メリット篇 では「企業の利益が増えて、いずれ賃金に波及する」というロジックを見ました。しかし反対派が指摘するのは、その 「いずれ」が来ない、もしくは届く前に物価が先に走り抜ける という現実です。
人々の消費支出は、最大の落ち込みを記録した

出典: アベノミクスの恩恵いずこ? 消費支出は最大の落ち込み
実質賃金の低下と歩調を合わせるように、家計の 消費支出 も落ち込んでいます。
メリット篇 で描いた「正のフィードバック」── 生産が増えて消費が増えて売上が伸びて賃金が増える、という循環 ── は、この 消費の落ち込み が事実なら、そもそもどこかで止まっていることになります。
「企業の利益は伸びたのに、家計の消費は減った」── これが反対派の最も繰り返し指摘してきた数字の食い違いです。
円安は「輸入品が値上がりする」という顔も持つ

出典: 企業物価指数の公表データ一覧
メリット篇 では「円安は輸出を伸ばす」と書きました。しかし円安には 裏面 があります。輸入品が値上がりする という、購買力に対する直接の打撃です。
エネルギー、食料、衣料 ── 日本が大量に輸入している品目の価格が上がれば、家計の負担は重くなります。輸出企業の利益が増える一方で、輸入消費者の生活は確実に削られている、というのが反対派の指摘です。
参考: Naverまとめ「助けて!あまりの円安で値上がりが止まらない!」
「企業は儲かっているのに、私たちには回ってこない」
反対派の体感を一言にまとめるとこうなります。
- 株価は上がった。しかし株を持っている人ばかりが恩恵を受けた
- 大企業の輸出収益は伸びた。しかし下請けや非正規には波及していない
- 物価は上がった。しかし賃金は追いつかない
- 円安で観光客は増えた。しかし輸入する側の生活コストは重くなった
緩和の 果実が偏在する ── つまり、緩和の恩恵を受ける人と、副作用を受ける人が 同じ人ではない というのが、反対派が見ている景色です。
反対派のまとめ
「緩和は資産価格を上げるだけで、賃金には届かない」という前提に立ち、緩和の果実が偏在しがちな現状を見るなら、金融政策の二面性 のうちデメリットは深刻に映ります。
- 物価は上がっているのに 実質賃金は下がっている
- 家計の 消費支出 は緩和後にむしろ落ち込んでいる
- 円安で 輸入品が値上がり し、購買力を直接削っている
- 企業の利益と家計の所得 が連動しないまま乖離している
- 緩和の 恩恵と副作用 が、同じ人に届いていない
ただし、緩和そのものを止めることも簡単ではありません。他国が緩和を続けるなかで日本だけ引き締めれば、急激な円高で輸出企業がダメージを受ける可能性が高いとされます。
賛成派と反対派、それぞれが見ている世界はまったく違います。しかし、その どちらも捨てない道 はあり得るのでしょうか。
→ 次の 4/4: まとめ篇 ── 緩和の効果と副作用を分けて設計する → 連載目次: 1/4 背景篇 ・ 2/4 メリット篇