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推薦と自己選択の二面性 ── デメリット篇

自分の希望を自分で見極める方が、後悔のない判断ができる。Android 機種数 3,997、アプリ 40 万、ジャム実験の選択肢ストレス ── 自己選択を貫く側の論理を、データと共に描く。

連載 3/4。2/4 メリット篇 の続きです。

自分の希望を自分で見極め、自分で比較する方が、後悔のない判断ができる」── この前提から見ると、推薦に乗ること には深刻なデメリットがあります。

他人の紹介の裏には、その人の 知識量利益的な立場 があります。仲の良い友人でもスマートフォンに詳しくないかもしれませんし、有名なメディアでも広告主との関係で語る内容が偏ることはあります。信用できるかも分からない場合、他人からの情報が本当かどうかを見極めるのも難しい ── これが自己選択派の出発点です。

推薦は「他人の思惑」を必ず含んでいる

メリット篇で見たように、心理学や脳科学を使えば人の選択は 制御できる とされます。デフォルトの設計、対比の作り方、繰り返しの提示 ── これらは「自分のためになる方向」だけでなく、「紹介する側の利益になる方向」にも同じだけ効きます。

メリット篇 で紹介した広告市場の巨大さは、自己選択派から見れば 人の選択が他人に動かされている総量 の指標でもあります。あなたが「自分で選んだ」と感じている購買のうち、本当に自分の希望から出発したものは、どれくらいあるでしょうか。

自分の希望から逆算すれば、推薦の外側にも良いものはある

自己選択派の出発点はシンプルです。スマートフォンであれば、自分にとって必要な機能 好きな色と形 自分が支払える金額 を整理し、それに合うものを選ぶ。100% 合うものがなければ、複数候補をリストアップして、実際に使うときのメリットとデメリットを自分で想像し、比較する。

そうやって選んだものは、たとえ世間の人気機種ではなくても、自分の生活に最も馴染む 1 台 になっている可能性が高いとされます。

Android 機種数は 3,997 ── 推薦の外側に出会えていない選択肢がある

Android 端末の機種フラグメンテーション可視化

出典: Android Fragmentation Visualized

ある調査では、市場に存在する Android 端末は 3,997 機種 にものぼるとされました。人気ランキングや友人の紹介に出てくる機種は、その中のごく一部にすぎません。他人が紹介していない機種の中に、自分にぴったり合うものが眠っている可能性 は、決して小さくないということです。

Android Market のアプリは 40 万 ── 推薦のフィルターから漏れる世界

Android Market のアプリ数が 40 万に到達した時のグラフ

出典: Google Android Market Tops 400,000 Applications

アプリでも同じことが言えます。Android Market のアプリ数は 40 万種 を超えたとされ、ランキング上位のごく少数を超えて、自分の用途に本当に合うものを探そうとすれば、結局は 自分の希望から逆算する しかなくなります。

自己選択にも壁はある ── 選択肢が多すぎることはストレスになる

自己選択を貫く側にも、現実的な壁はあります。自分の希望や目的が明確じゃない場合、選択肢が多すぎて選べなくなる。ある程度明確だったとしても、物事を否定的にとらえがちな人にとっては、どの選択肢にもデメリットが目に入って、より選びにくくなります。

ジャム実験 ── 6 種類のジャムは、24 種類のジャムの 6 倍売れた

スーパーのジャム試食実験。24 種類の試食コーナーと 6 種類の試食コーナーの売上比較

出典: Sheena Iyengar Jam Study

食料品店の入り口付近で、24 種類のジャムを並べた場合と 6 種類のジャムを並べた場合の売上を比較した実験では、試食に客が立ち寄る率は 24 種類の方が多かったのに、実際の売上は 6 種類の方が約 6 倍 にもなったとされます。これは行動経済学では 選択肢過多(choice overload) として知られる現象です。

つまり、自己選択を素朴に「選択肢を増やす」ことだと考えると、かえって何も選べなくなる。自己選択は、選択肢の総量を減らす作業(=自分の希望で絞り込む作業)から始めないと機能しない ── これが自己選択派が引き受けるべき難所です。

反対派のまとめ

「自分の希望を自分で見極め、自分で比較する方が、後悔のない判断ができる」という前提に立ち、推薦の裏に必ずある「他人の思惑」を考えるなら、デメリットは深刻に映ります。

ただし、自分の希望を持つこと自体が、すでに 他人の影響を受けた結果 かもしれない ── ここから先は、推薦と自己選択のどちらでも逃げきれない、より深い問いになります。

賛成派と反対派、それぞれが見ている世界はまったく違います。しかし、その どちらも捨てない道 はあり得るのでしょうか。


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