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自動化と仕事の二面性 ── デメリット篇

働く中に幸せがある。雇用の停滞、賃金の低下、約半数の仕事が消える試算、人間の能力低下 ── 自動化を懸念する側の論理を、データと共に描く。

連載 3/4。2/4 メリット篇 の続きです。

働く中に幸せがある」── この前提から見ると、仕事の自動化 には深刻なデメリットがあります。

簡単に言えば、ロボットは一部の人たちのものになり、ほとんどの仕事はロボットに代替され、今までの仕事でお金を稼いでいた人たちは稼ぎにくくなる ── これが反対派の出発点です。ここでロボットが全員に普及されていれば、全員自動農業などで働かなくても生きていけるのですが、ロボットが高額であれば貧困者は増えていく可能性が高いとされます。

仮に全員に普及されたとしても、自動化に反対する人は残ります。彼ら/彼女らは「働く中に幸せがある」と考える人たちです。

生産性は伸びているのに、雇用は伸びていない

アメリカでは21世紀に入ってから雇用の伸びが良くない

出典: 書籍「機械と競争」

メリット篇 で見たように、アメリカでは生産性が伸び、企業利益も増えています。しかし、21 世紀に入ってから雇用の伸びは明らかに鈍化 しているとされます。

機械が稼ぐ分だけ人間の雇用が膨らむわけではない ── 反対派が最も繰り返し指摘してきた数字の食い違いがここにあります。

大卒以下の学歴では賃金が少しずつ落ちている

出典: 書籍「機械と競争」

学歴別に賃金を見ると、大卒以下の層では賃金が少しずつ下がっている とされます。自動化に置き換えられやすい仕事ほど、稼ぎから先に削られていく構造です。

一人当たりの実質GDPは伸びてるが所得はあまり伸びていない

出典: 書籍「機械と競争」

一人あたりの実質 GDP は伸びていますが、中央値の所得はあまり伸びていません。社会全体は豊かになっているのに、ふつうの個人は豊かになっていない ── この乖離も、自動化の恩恵が一部に偏っている兆候だと考えられます。

10〜20 年で「なくなる仕事」のリストが示すもの

あと10-20年でなくなる職業・残る職業

出典: 書籍「人工知能は人間を超えるか — ディープラーニングの先にあるもの」

人工知能の研究者からは、10〜20 年でなくなる職業・残る職業の試算が次々と出ています。事務・運転・販売・データ入力 ── かつて「安定」と呼ばれた多くの仕事が、リストの「なくなる」側に並びます。

自動化によってアメリカの仕事の約半分がなくなるかもしれない

出典: Job Automation May Threaten Half of U.S. Workforce

オックスフォードの研究では、自動化によってアメリカの仕事の約半分 が今後 10〜20 年で消える可能性があると試算されています。これは観察と推計を組み合わせた予測であり、確定した未来ではありませんが、規模感 として無視できない数字です。

リーマンショックから失業率が回復した国もあるがそれでも高い

出典: 社会実情データ図録 — 日本と欧米主要国の失業率推移

リーマンショックの後、失業率が回復した国もありますが、それでも歴史的に見ると高止まりしています。「雇用が戻る」と言われた回復の中身が、自動化に耐えうる仕事ばかりではない ことも、反対派の懸念を強めています。

人間の能力そのものが衰える

ロボットによって自動化されることで、人間がやることは少なくなり、人間のあらゆる能力は低下していきます。日常的な事故が減ったとしても、突然機械が対応できない現場に出会ってしまうと、人間が機械を補完しないといけなくなります。そのとき、人間側に「補完できる力」が残っているか。

能力低下の例として、高度に自動化された旅客機のパイロットへの調査があります。「高度に自動化された飛行機を操作する経験によって、自分の手動操作能力が影響されたと思うか」と尋ねたところ、4 分の 3 以上が「スキルが衰えた」と回答 したのに対し、スキルが向上したと感じている人はごくわずかだったとされます。

メリット篇 で見た「ヒューマンエラーが減って事故が約 60 倍安全になった」という数字の裏には、こうした 能力の空洞化 という影が同時に存在します。

反対派のまとめ

「働く中に幸せがある」という前提に立ち、自動化のリターンが一部に集中しがちな現状を見るなら、デメリットは深刻に映ります。

ただし、自動化そのものを止めることは現実には難しい。技術は国境を越えて広がりますし、止めれば止めただけ他国に置いていかれる側面もあります。

賛成派と反対派、それぞれが見ている世界はまったく違います。しかし、その どちらも捨てない道 はあり得るのでしょうか。


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