ベーシックインカムの二面性 ── デメリット篇
人は自由にお金が使えれば、感情と欲求に流される存在だ。依存症、健康悪化、貧困固定、貯蓄死蔵 ── BIが引き出すもう一方の景色を、反対派の論理とデータで描く。
連載 3/4。2/4 メリット篇 の続きです。
「人間は自由にお金が使えたら、感情や欲求に流されてしまう存在だ」── この前提から見ると、ベーシックインカムには深刻なデメリットがあります。
賛成派が描いた像に比べると、反対派の像はずっとシンプルです。依存症につながるような使い方をしてしまい、本人だけでなくその周囲にも悪影響が及ぶ ── これが核心です。
注意:消費している人全員が依存症になるわけではありません。しかし依存症であることに自覚がない場合もあり、消費している人全員が依存症にならないとも限らない、というのが反対派の出発点です。
依存症は他人事ではない
すでに現在、依存症は人口の一定割合で発生し続けています。

出典:「21 世紀における国民健康づくり運動(健康日本 21)」の最終評価について
アルコール依存症の患者数は長期的に増加傾向。「健康日本 21」の最終評価でも、依存症対策の課題が指摘されています。

出典: 厚生労働省 薬物乱用の現状と対策

出典: 学校保健ポータルサイト 薬物乱用の指導
薬物事犯の検挙人員、覚醒剤事犯者と再乱用者の推移を見ると、薬物依存も社会から消えてはいない。
そして現代特有の依存もあります。

出典: 20 代では 1/3 以上が「自分はケータイ依存」
高校生のスマートフォン利用開始により減った時間(学習・睡眠・対人交流など)、携帯電話を持ち歩いていないと不安かどうか、自分は携帯依存症だと自覚する人の割合 ── 20 代では 1/3 以上が「自分はケータイ依存」と答えています。
BI で空き時間とお金が同時に手に入ったとき、これらの依存リスクは下がるのか、上がるのか。反対派の前提では、上がる可能性が高い とされます。
他人に影響しなくても、健康を蝕む
仮に他人に直接の悪影響がない依存だとしても、本人の健康に悪影響が及びます。
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出典: 厚生労働省 基本統計要覧 第 2 編保健衛生 第 1 章保健 / アルコール薬物問題全国市民協会
- 性年代別の肥満(BMI25 以上)状況
- 性年代別の喫煙の状況
- 性年代別の飲酒の状況
- 急性アルコール中毒等による死亡者数
BI で食費や酒・タバコへの支出が増えると、これらの健康指標は悪化する方向に動きうる。健康悪化は医療費に跳ね返り、社会保障の出費を増やします。
現金給付 vs 現物給付
BI のような 現金給付 と、お金ではなく直接物資・サービスで提供する 現物給付 の違いについても、反対派は注目します。

出典: 子どもの貧困対策としての教育
社会保障サービス(再分配)の適用前と適用後の貧困率を国別に比較した図です。デンマークやスウェーデンは税金も高く、教育などを 現物給付 で行なっており、適用前と適用後で大きな改善が見られます。一方で現金給付に寄せている国では、再分配の効果が出にくい傾向もあります。
「お金を渡せば自由に使ってもらえる」── その自由が、必要な所に届かない場合もあるわけです。
貯蓄に消える
さらに、現金を給付しても 貯蓄されてしまえば経済は循環しません。
「BI の制度がいつか終わるかもしれない」という不安が存在すれば、BI で受け取ったお金は貯蓄に回されやすくなります。家計の貯蓄率を見ると、世代によっては貯蓄率が減少傾向にあるとはいえ、不安感が強まる局面では再上昇する可能性があります。
つまり、BI が経済を回す装置として機能しない可能性もあるということです。
反対派のまとめ
人に最低限のお金を与えても、自分の欲望に流されやすい人が一定割合いれば、社会には混乱が広がり、貧困率も上昇していく可能性があります。
- 自由が増える分、自己責任が強まる。消費の「正しい方法」を間違える可能性がある
- 労働やボランティアといった社会参加が保障されるわけではない。やりたくても能力がなければできない
- 現金給付のみの社会保障では貧困層が増える可能性がある
- 最低賃金は、生活に必要なお金が保障されているという理由で廃止されてしまい、結果として給料が減るかもしれない
- 公的福祉や労働規制がなくなる可能性が高い。能力を身につけるための支援も「自己責任」とされて消える可能性がある
人を 理性的な存在 と見るか、感情に流される存在 と見るか ── その前提の選び方ひとつで、同じ制度がまったく違う制度になります。
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