ベーシックインカムの二面性 ── まとめ篇
メリットとデメリットを行き来したあと、その中間にあるグレーゾーンを整理する。理性か感情かの二択ではなく、その揺らぎを前提に制度を設計する道について。
背景篇、メリット篇、デメリット篇 と読み進めていただいた最終回です。最後にメリットとデメリットの中間と、その周辺の補足についてまとめます。
働かなくなる人が増えること自体は問題ではない
「BI を入れたら誰も働かなくなる」という反論はよく聞きますが、それ自体は問題ではありません。
問題なのは、BI で支給されたお金が BI の財源に回るように消費されないこと です。働かない人が増えても、その人たちが消費を続けてくれれば、BI の税源(特に消費税)はむしろ厚くなります。
また、無いと困るサービスに関しては、誰かが行うか、あるいはこれまで以上の報酬(高額な現金か、現物による報酬)が現れて、サービスは消えないでしょう。
人間は理性的か感情的か、簡単に分けられない
メリット篇の前提は「人間は理性的」、デメリット篇の前提は「人間は感情的」でした。しかし、現実の人間はそんなに簡単に二分できません。
現金給付という設計のままでそのグレーゾーンに対処するには、「人間は理性的でもあり感情的でもある」 ことを前提にして制度を設計したほうがいいかもしれません。
例えば:
- 依存症につながりやすい商品(酒・たばこ・ギャンブル・スマホ課金など)に対しては消費税をさらに高くすることで BI の財源を確保する
- 統計的に人口の数 % は依存症に陥ってしまうという前提に立って、一般の方々から徴収する税額を設定する
「全員が理性的」「全員が感情的」のどちらにも振り切らず、確率分布として制度を設計する道があります。
経済は成長しているのか、成熟しているのか
経済成長率が高いか低いかも、BI を考えるうえでとても大事な論点になります。
- 企業が年々成長していて、国民の給与が年々増えていて、税収も年々増える社会
- その逆の状態の社会
このふたつでは、BI を上手く機能させるための施策が大きく変わります。
雇用が不足しているのか、過剰なのか。生産が不足しているのか、過剰なのか。現在の日本はどちらかと言えば、以前と比べれば、生産が過剰状態にあり、あまり消費が行われない傾向 にあります。その中で BI を導入したとして消費税が増えるのかどうかは、慎重に観察する必要があります。もちろん消費税以外の財源確保の方法もありますが。
既存の福祉・ワークフェアと BI の違い
そもそも既存の福祉(生活保護など)に比べて BI が本当に良いのかどうか、慎重に分析・検証していく必要があります。たとえば外国を含めて存在するデータで、コストパフォーマンスを比較するなど。
今の社会保障政策に対する批判は多いですが、しかし 「ただやったことがないから良さそう」 ぐらいの判断で BI を導入してしまうと、BI もまた批判されるだけの制度になってしまう可能性があります。
BI をやるなら、情報公開と監視が必要、という案も
思想家・批評家の東浩紀氏は、ベーシックインカムを適切に管理するために、電子マネーを導入して全国民の購買履歴を追跡できるようにする ことを提唱しています。
参考: 東浩紀「プライバシーって本当に必要ですか?」 / 東浩紀のベーシックインカム原理論
BI の自由さを担保する代わりに、何に使われたかを社会が把握できる状態にする。自由と監視のトレードオフ ── ここにも別の二面性が立ち上がります。
最後に
ここまでベーシックインカムの二面性についてまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか?
調べてみて思ったのは、Wikipedia ですら結構情報がまとまっているほど BI には注目が集まっているにもかかわらず、論じる人それぞれが別々の部分に論点を持っていて、話がややこしくなっている、ということでした。
ベーシックインカムというのは、労働に縛られていたお金が労働から解放され、人生そのものを変えることになる制度 です。だからこそ「人間は理性的なのか、感情的なのか」という根源的なテーマが、この制度の特徴的な部分になるのだと思います。
「やるべき」「やめるべき」の二択を急ぐ前に、この二面性を行き来してみる ── そのこと自体が、kumoism がこの連載でやりたかったことです。
連載をはじめから:
→ 1/4 背景篇 → 2/4 メリット篇 ── 自由と理性の経済 → 3/4 デメリット篇 ── 依存と感情の経済