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児童虐待の二面性 ── メリット篇

虐待は加害行為であり、子どもを守ることが最優先である。脳の発達低下、IQ低下、依存症リスク ── 被害を受ける子ども側からの視点を、データと共に描く。

連載 2/4。1/4 背景篇 の続きです。

虐待は加害行為であり、子どもを守ることが最優先」── この前提から見ると、児童虐待 はまず加害者から子どもを引き離し、被害を最小化することが最大のメリットを生みます。

簡単に言えば、虐待は子どもに 回復しがたい身体的・知的・心理的なダメージ を与え、その影響は大人になってからも続く可能性が高いとされます。だからこそ社会は、加害行為としての虐待をはっきりと指弾し、子どもを守る制度を整えるべきだ ── これが子ども側からの出発点です。

児童虐待には 5 つの種類がある

まず 児童虐待 (Child Maltreatment) には大きく 5 種類があるとされます。実際には複合的に行われることがほとんどです。

これらの虐待が子どもに与える影響を、ごく簡単にまとめると 3 つに集約されます。もちろん程度によって症状は変わります。

  1. 大きな怪我。重篤な場合は死に至る
  2. 知的発達の低下や遅れ
  3. 様々な心理的な影響 ── 不安定な対人関係、低い自己肯定感、攻撃的・衝動的な性格、落ち着かない、PTSD、大人のようなふるまい、記憶障害、もうろうとした意識、等

出典: 厚生労働省「子ども虐待対応の手引き 虐待の子どもへの影響(5 ページ)」

脳そのものが小さくなる ── 数字で見る回復しがたさ

「叩いた程度」「言葉で怒鳴った程度」と軽く扱われがちな虐待でも、子どもの脳と知能に対しては観測可能な影響が出ているとされます。

虐待を受けた子どもは脳が小さくなる

出典: 書籍『児童虐待と傷ついていく脳 ── いやされない傷』

虐待を受けた子どもは、受けていない子どもよりも 脳のサイズが小さくなる 傾向があるとされます。情動を司る部位や、判断・自制に関わる部位に影響が出やすいことが、複数の研究で報告されています。

叩かれた子どもはIQが低下する

出典: Children Who Are Spanked Have Lower IQs, New Research Finds

「しつけのため」と称される身体的な体罰でも、叩かれた子どもは IQ が相対的に低下する 傾向があるとされます。これは観察研究のため厳密には相関ですが、体罰がストレス反応として認知発達に作用している可能性が高いと考えられています。

性的虐待を受けた子どもは将来アルコール依存・薬物依存のリスクが上がる

出典: Childhood Sex Abuse Increases Risk for Drug Dependence in Adult Women

性的虐待を受けた子どもは、将来 アルコール依存・薬物依存・精神疾患 に陥るリスクが、そうでない子どもよりも有意に高くなる可能性があるとされます。被害は虐待を受けた瞬間で終わらず、大人になってからの人生全体 に影響を残します。

「加害者を罰すれば解決する」という素朴な解の強さ

これらの数字を踏まえると、子ども側の立場が強く打ち出す結論はシンプルです。

この立場には、強い説得力があります。なぜなら、被害を受けるのは どう転んでも子ども側 だからです。親の事情をいくら酌んでも、子どもの脳が小さくなった事実は元に戻りません。亡くなった子どもの命も戻ってきません。

では、これだけで虐待は無くなるのか

「加害者を罰し、子どもを守る」── この道を徹底すれば、児童虐待は無くなるでしょうか。

短期的には、目の前の子どもを救うことはできます。しかし、虐待に陥った親をひたすら罰して終わりにしてしまうと、その家庭で次に生まれる子ども、別の家庭で同じ状況に追い詰められている親までは射程に入らない という限界が見えてきます。

社会全体として虐待を減らすには、加害者を罰することと並行して、「親が虐待に陥る前」に手を打つ視点 が必要になります。それが次の記事で扱う、親側の景色です。

子ども側のまとめ

「虐待は加害行為であり、子どもを守ることが最優先」という前提に立つなら、子ども側のメリットは明確に現れます。

ただしこれは、「悪い親がいるから虐待が起きる」という前提があってこその話です。その前提を一歩外して、「誰でも追い詰められれば陥り得る状態」として見たとき、まったく違う景色が現れます。


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