出産育児の二面性 ── 国民協力篇
税金で子育てを支え、女性の労働参加と経済成長を回す ── 国民全員で育てる立場の論理を、税制・労働力率・保育費・赤ちゃんの泣き声まで含めて描く。
連載 3/4。2/4 自己責任篇 の続きです。
「みんながみんな子どもを可愛いと思うわけではない」── それでも社会の中で子どもが育っていく。そのためには 国民全員で協力する という選択肢があります。本稿はその立場、つまり 税金で出産育児を支える 道の論理と倫理を見ていきます。
国民全員で協力するというのはどういう意味かというと、それは 税金を納めて、その税金で育児を支援する ということです。税金の納め方は色々ありますが、割合が高いものは主に消費税、所得税、法人税の 3 つとなっています。

出典: わが国の税制の概要(財務省)
所得課税だけで全体の 2 分の 1、消費課税で 3 分の 1 を占めるとされています。この税金が医療や年金だけでなく、子どもの教育にも使われているわけです。税金が使われるということは、社会で一定以上の人が「子育てに協力する」ことに賛成していることを表します。
1. 税金による子育てのメリット
一番のメリットは、企業は労働力として女性を雇用でき、働きたい女性は働くことで充実感を得ることができる、という循環です。経済成長と労働者の人口は比例しやすいので、移民を受け入れられない状態だと女性に働いてもらうことが選択肢になっています。

出典: 男女共同参画社会の形成の状況(内閣府)
25 歳から 40 歳ぐらいの女性の労働力率が現在低く、ここに M 字カーブ と呼ばれる谷があります。この部分の女性が働くようになれば、労働力人口は底上げされると考えられます。

出典: 男女共同参画社会の形成の状況(内閣府)
最低でも 131 万人 もの労働者が増えることになる、という試算もあります。

出典: ワーキングマザーの仕事「満足度」調査
前回も紹介しましたが、全体の 65 % ものワーキングマザーが仕事に満足しているとされています。「働きたい」という意思が実現できる環境を、税金で支える ── これが国民協力の根本的な狙いです。
女性の所得と消費が経済を動かす
さらに女性が働けるようになるということは、女性の所得が上がり、女性による消費が増えるということです。近年の「◯◯女子(ガール)」のような消費トレンドも、その流れの一部かもしれません。


出典: 女性と経済 ── 市場における重要度の高まり(EY 総合研究所)
昔に比べて女性の給与が上がり、消費支出と可処分所得も多くなっています。
このように、女性が働く → 企業労働者確保 → 企業は売上アップ&女性は消費 → 理想は給料が上がる → 女性も男性も税金をより多く納める → 育児の公共サービスが充実する、という好循環が生まれうるわけです。
2. 税金による子育てのデメリット
子どもを税金で育てる以上、公共の財 として扱わなければいけなくなります。それが負担だと感じる人はもちろん価値観が多様な世の中にはいるでしょう。
例えば、出産を考えておらず好きに働きたい人にとっては、子育てのために納税額が上がり、そのために余計に働かないといけないのは苦痛となります。

出典: 保育費シミュレーション(千葉市)
例えば保育施設を利用している子どもが 0 歳 1 人だとすると、実際に親が払っているのは 4 万円 ですが、25 万円相当 のサービスを受けていることになります。その差額はもちろん税金です。

出典: 「保育所に防音壁」支援 政府、住民トラブル対策(産経)
保育園の 防音費用分 も納税する必要があります。子育てを「公共の財」とすると、それを支える費用は単なる保育料だけにとどまりません。
赤ちゃんの泣き声は、本当に小さくない
また、人によっては「赤ちゃんの泣き声で元気が出る」と言う人もいますが、赤ちゃんの泣き声は冷静に計測するとそれなりに大きいです。うるさいと感じる人がいてもおかしくありません。

出典: かわいい赤ちゃんの泣き声は一体何デシベル? / 騒音値の基準と目安
赤ちゃんの泣き声は 80 デシベル以上 とされています。これは地下鉄車内や工場内に相当する水準です。子育てを公共化するということは、こうした音や騒ぎを社会全体で「受け入れる側」になる、ということでもあります。
3. その他補足 ── 経済効果と「結婚相手の年収」
以前話題になったブログ「保育園落ちた日本死ね!!!」では「オリンピックで何百億円無駄に使ってんだよ。」と書かれていましたが、オリンピックに投資することで得ることができる経済効果も指摘されています。

出典: 2020 年東京オリンピックの経済効果(日本銀行)
開催の 5 年前から 2 年前 にかけて、開催国の実質 GDP 成長率が有意に高まることを示している、という分析もあります。もちろんすぐにでも子どもを増やすために保育園などに投資することも大事ですが、直近得ることができる経済効果から 改めて保育園などに投資する ほうがいいかもしれません。
それから、女性が結婚相手に求める理想の年収と、実際にその年収を得ている人が十分に存在しなかったり簡単に会えなかったりして、晩婚と少子化に陥っている可能性もあります。

出典: 結婚相手に求める年収、男性と女性ではこんなに違う!(Anniversaire)
多くの女性が男性に望む年収は 500 万円以上 とされています。

出典: 年収階層分布図(年収ラボ)
年収 500 万円以上の男性はそれなりに存在します。ただ本当にこのぐらいの年収がないと子育てができないのでしょうか。都会と田舎では違うでしょうし、食べるご飯や住む家によっても変わります。そうしたプライドの高さが少子化を生んでいるのかもしれない ── という見方もあります。
国民協力篇のまとめ
国民全員で子育てを支える道は、多くの人を巻き込む ことで規模の利益を取りに行く戦略です。
- 女性が働き、所得と消費が増え、税収が育児サービスに還元される好循環が起きうる
- 経済成長と社会保障の担い手を、移民に頼らずに国内で確保できる可能性がある
- ただし「子育てに関心がない人」も納税を通して間接的に巻き込まれる
- 保育費の自己負担額と実際のコストには大きな差があり、税で埋めている部分が大きい
- 騒音や住環境への配慮など、生活レベルでの「受け入れ」も求められる
子育てを「自分のもの」と捉えるか、「社会のもの」と捉えるか ── その前提の選び方ひとつで、同じ保育園・同じ税金がまったく違う意味を持ち始めます。
→ 次の 4/4: まとめ篇 ── 自由と協力のあいだで → 連載目次: 1/4 背景篇 ・ 2/4 自己責任篇