出産育児の二面性 ── 自己責任篇
子育ては自分で選び、自分で責任を取る ── 自由で多様な家族の形を肯定する立場の論理を、共働き・地方移住・NPO・自衛隊高齢化のデータから描く。
連載 2/4。1/4 背景篇 の続きです。
「子どもは自己責任で育てるべきだ」── この前提から見ると、出産育児は 自由な選択肢の多い営み として立ち現れてきます。働き方も、住む場所も、結婚相手との関係も、できるだけ国家ではなく 個人の意思 に委ねるべきだ、という立場です。
子どもを産めない理由として多くの人が挙げるのは「お金」の問題です。

出典: 女性が赤ちゃんを産めない理由(日本)、年々増える「産まない選択」 / 妻の年齢別にみた、理想の子ども数を持たない理由(内閣府)
しかしお金をどれくらい稼げるかは色々な要因が絡んでいます。特に大きいのは働き方ですが、それは個人個人が自由に生きるか、もしくはみんなで税金で協力し合って生きるかの選択の問題でもあります。本稿では 自己責任の子育て のメリットとデメリットを順に見ていきます。
1. 自己責任の子育てのメリット
そもそも 自己責任のメリットは自由 であることです。自由だから自己責任が存在し、自己責任だから自由が存在します。これらは表裏の関係にあります。何でも自分で好きに選んでいい代わりに、そのリスクは自分で管理する ── これが核心です。
自己責任の子育てとは、つまり 自由な子育て ということです。では「自由な子育て」とは何でしょうか。
それは 自分の子どもをどうやって育てても自由 ということです。そしてその選択肢は、時間やお金があったり、視野が広いほど存在します。反対に税金などでお金を取られてしまったら選択肢が狭まってしまう、と考えられます(税金の話は次回)。
選択肢 A: 働きながら子育てをする
まず考えられるのが「働きながら子育てをする」という選択肢です。働くことに生きがいを感じている人も多く、計画的にお金を稼いでいればベビーシッターなどのサービスを使うことで実現できます。

出典: ワーキングマザーの仕事「満足度」調査
全体の 65 % ものワーキングマザーが仕事に満足しているという調査結果があります。

出典: <市場を読み解く>保育園・託児所市場
古いデータではありますが、一定の層にベビーシッターの需要が存在することが分かります。代行人がいれば、煩わしい夫や妻、祖父祖母からも「離れて」子育てができます。離婚にそれほど負担が生まれず、恋愛で失敗しても大きな損害を被ることがありません。
異性を見る目がないのにも関わらず、結婚して出産してしまい、気づいたら育児を手伝わない、さらには DV や虐待、ギャンブルなどをする異性に出会ってしまう人もいるでしょう(男に限った話ではありません)。
しかし事前にそうなるかもしれないと思ってお金を稼いでおけばすぐに離婚に踏み切れます。だからこそ自己責任の立場からは「お金がないのにシングルマザーになるのは自己責任だ」として切り捨てられる、という論理が成り立ちます。
選択肢 B: 田舎や自然の多い場所で子育てをする
逆にお金をかけない方法を選ぶこともできます。たとえば「田舎や自然の多い場所で子育てをする」という選択肢です。

出典: 地方移住等地方へのヒト(定住人口)の流れ(国土交通白書)
鳥取への移住理由として「子育て」を挙げるのは 20 代・30 代が多いとされています。大都会でキャリアアップしたり便利な消費生活を送ることにあまり価値をおかず、自然の多い環境でゆったりと子育てをするのが良いという方には最適です。
さらに、納税額が少なく自由に子育てができる状況なら、十分選択肢になりえます。納税しない分、好きな公共サービスを選べるという意味で NPO への寄付金が増える という見方もあります。NPO とは本来自由な社会のセーフティネットです。

出典: 特定非営利活動法人の活動分野について
「子どもの健全育成を図る活動」の法人数は 2 万以上 あります。このように自己責任な子育てとは、一人ひとりの価値観や生活スタイルに合った方法で子育てができる、という主張です。
2. 自己責任の子育てのデメリット
さっそく手のひらを返すようですが、自分で 100 % 計画を立てて思うように子育てができる人など多い方ではない、という見方もあります。わがままで行き当たりばったりなのが人間です。それはたとえばどんな人でしょうか。
例えば 働くことが苦痛な人 はお金を自分で稼ぐことができません。

出典: 労働災害で亡くなる人はどれくらいいる?(公益財団法人生命保険文化センター)
年間約 1,000 人 が労働災害で死亡しているとされます。この例は極端ですが、極端ではない人(苦痛ではなくても積極的に働きたいとは思わない人)はもっと多いということです。
それから 離婚から一人親になってしまい、家計が苦しくなり、仕事で忙しくて子どもの面倒を見切れない こともあります。

出典: 第1回「誰もが気になる離婚原因。妻の1位はやっぱり…アレ!」
男女とも離婚の原因第 1 位は「性格の不一致」とされています。

出典: ひとり親家庭等の現状について(厚生労働省)
母子世帯だと平均年間就労収入は 200 万円 いきません。これらの問題は個人の中で収まっていれば、自由な子育てに上手くいっている人からすれば「自己責任だ!」と切り捨てることができるでしょう。上手くいっている人の生活に何ら悪影響がないからです。
公共サービスは民営化しきれない
しかし問題はそう簡単ではありません。なぜなら 政府はどんなに民営化を進めてもすべてを民営化できない からです。
国の人口が増えないといけない理由の 1 つは 経済成長(色んなものを消費できると幸せになれるという価値観から)で、もう 1 つはその経済成長によって生まれた利益による 納税&公共サービスの運営 です。
経済成長と納税自体は、究極的には移民を入れて稼いでもらって公共サービスをまわすこともできるでしょう。女性の社会進出を高らかにうたっているのもそこに女性にも稼いでもらうという面がありますし、東京のコンビニスタッフに海外の方が多くなってきたのも実質的に移民受け入れの一面です。
しかし 公共サービスを運営する人たちはどうでしょうか。例えば子どもが少なくなって高齢者ばかりになった自衛隊は、国を守れるのでしょうか。

出典: 自衛官年齢別人員分布の変化(財務省)
過去 20 年間で自衛隊全体の平均年齢が少し上がっているとされます。では 自衛隊の人たちは移民でもいいのでしょうか。これは完全に解釈・感情の問題です。移民に対してまったく疑いがないのであればそれでもいいでしょう(戦争しましょうという意味ではなく、いざというときに守れるのかという話です)。
もし移民による公共サービスの運営でもいいのであれば、今貧困層にいるシングルマザーに対して「自己責任だ」と切り捨ててもいいかもしれません。その子どもが上手く育たなくても国の公共サービス(防衛や社会保障など)は他国からの移民が運営する、というシナリオが成り立ちます。

出典: OECD 諸国の移民人口比率(社会実情データ図録)
日本にいる移民人口は 1.1 % ほどです。移民の受け入れに消極的な層にとっては「移民によって国が支配される」という不安が強く、そう考える人たちにとっては「どうしても自己責任で子育てができない人を切り捨てること」自体がデメリットになる、という論理になります。
自己責任篇のまとめ
自己責任の子育ては、自由 という価値と表裏一体です。
- 自由だから多様な家族のかたちが許される。働きながら都市で育てる人、田舎で時間をかけて育てる人、NPO に支えられる人 ── どれも本人が選ぶ
- 一方で、能力や運に恵まれなかった人を「自己責任だから」と切り捨てると、社会保障や防衛の担い手が薄くなる
- 担い手が足りなければ、結局は移民に頼るか、社会の仕組みそのものを縮める必要が出てくる
「自由」と「公共サービスの持続」── このどちらをどれだけ優先するかで、同じ「自己責任」という言葉がまったく違う響きを持ちます。
それでは次回、もう一方の立場 ── 国民全員で税金を出し合って子育てを支える ── を見ていきましょう。
→ 次の 3/4: 国民協力篇 ── みんなで育てる社会の光と影 → 連載目次: 1/4 背景篇 ・ 4/4 まとめ篇