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集団的自衛権の二面性 ── 背景篇

なぜ今、集団的自衛権なのか。戦争・紛争数、テロ、中国と米国の軍事費から現状を整理し、日本が選ばなければならない 3 つの未来を提示する 4 部連載の序章。

これは特定の立場を支持・非難する目的ではなく、賛成派と反対派それぞれの論理と倫理を独立した記事として描き、両側の視点を提示するための作品です。

集団的自衛権とは、他国が攻撃された場合に、その他国を支援する(守ったり一緒に攻撃したり)権利のことです。安全保障関連法案(以下、安保法案)が自民・公明両党などの賛成多数により可決されましたが、政権と反対派の人たちのあいだの対立はつづいています。

何をもって集団的自衛権を行うべきなのか ── これはとても難しい問題です。本連載は 集団的自衛権の二面性 を全 4 回に分けて見ていきます。

戦争・紛争は減ってきた。ただし、形は変わった

まず、現状を整理しましょう。世界には今も戦争・紛争が存在しますが、終戦直後と比べればまだ多いものの、冷戦終了後からは 減少傾向 にあります。

戦争・紛争数の推移

出典: The World Is Not Falling Apart

近年わずかに上昇しているのは、イスラム過激派の影響だと考えられます。また、国家対国家の戦いよりも、民間人やテロリストとの戦いへと比重が移りつつあります。軍と警察の相互的な動きが必要であるという意味で、「ハイブリッド戦争」と呼ばれます。

テロリストによる死者数の推移

出典: Global Terrorism Index 2014

つまり、平和の数値が改善する一方で、平和の は変わってきたとされます。「国家を守る」のか「人を守る」のか、軍事力で対処すべき相手は誰なのか ── 議論の土台がずれつつあるのです。

集団的自衛権が議論される 2 つの背景

集団的自衛権を必要だとする主張の根拠としてよく言われるのは、次の 2 つです。

1. 中国共産党の軍事的台頭

中国の軍事費の推移

出典: A Salutation To Arms: Asia’s Military Buildup, Its Reasons, and Its Implications

中国の軍事費は年々右肩上がりです。アジア全体の軍拡傾向のなかで、最も大きく伸びている当事者と言えます。

2. アメリカの軍事費縮小

アメリカの国防予算

出典: America’s staggering defense budget, in charts

世界の警察を担っていたアメリカの軍事費は下がっていく一方です。国内の経済が不安定になっているとされ、海外への関与を縮小する方向にあります。

世界の軍事費比較

出典: Militaries Have Peak Oil in Their Sights

ただし、それでもアメリカの軍事費は他国と比べて圧倒的に高い。「縮小している」とはいえ、世界の軍事バランスを支えているのは依然としてアメリカです。

問いの設定 ── 「守る相手」と「守る余裕」

これらの数字が示しているのは、結局のところ次の二つの問いです。

日本には、軍事的に守りたい他国があるのか。 日本には、その他国を守ることのできる余裕があるのか。

イスラム過激派や中国共産党には軍事力でないと対処できないと考える人、他国を守らなければ日本にまで影響があると考える人にとっては、集団的自衛権が必要になります。一方で、外交や他の方法でそれらに対処できると考える人にとっては、必ずしも必要ではありません。

軍事費は税金でまかなわれていることも、議論の大事な論点です。

3 つの未来 ── 日本人は現状を知った上で選ばなければいけない

整理すると、日本の安全保障の選択肢は次の 3 つに集約されます。

  1. 他の国と協力していくべきなのか(集団的自衛権を行使できる/する)
  2. 自分の国だけを考えていくべきなのか(集団的自衛権を行使できない/しない)
  3. 自分が住んでいる国を最も大切に考えながら、他国とも協力する

それとも 4 つ目として、新しい安全保障を模索していくのか ──。

なお、安倍首相と自民党の解釈で法案が通っているため、憲法の解釈は「与党次第」になってしまっている現状はここでは脇に置き、集団的自衛権そのものに焦点を合わせます。テロリストは国家ではないので憲法の解釈上は対処できることになっていますが、各国の安全保障に影響のあるセクターなのでここでも考慮します。

二面性の核心にある問い

連載全体で行き来する核心の問いはこれです。

平和は、抑止力によって守られるのか。それとも、武力以外の方法によって守られるのか。

賛成派は「軍事的な抑止力こそが平和を作る」と前提を置きます。 反対派は「殺さない・殺されない状態こそが本物の平和だ」と前提を置きます。

このどちらが「正しい」かは、データだけでは決められません。しかしどちらの前提を取るかで、見える景色が大きく変わります。

次の 2 回では、賛成派の世界と反対派の世界を、それぞれ独立した記事として書きます。


→ 次の 2/4: メリット篇 ── 抑止力と同盟の論理