著作権の二面性 ── 背景篇
コピーは創作を殺すのか、文化を育てるのか。コンテンツ市場、美術展、デザイン業界の規模から「オリジナルとコピーの境界線」を巡る議論の前提を整理する 4 部連載の序章。
これは特定の立場を支持・非難する目的ではなく、著作権を強く守るべきだとする側と、コピーや二次創作を緩やかに受け入れるべきだとする側、それぞれの論理を独立した記事として描き、両側の視点を提示するための作品です。
人はモノを作ります。生活に便利なモノ、自分自身を表現するモノ、売って稼ぐためのモノ ── こんなに多様なモノを作るのは、地球上の生命では珍しいことだとされます。
そして、その多様な表現のなかで、なかなかない独特の表現が オリジナリティ(独創性) を生み出します。著作権 はそのオリジナリティを保護し、制作者がお金を得て生活したり、次の制作のやる気に繋げたりするための仕組みです。
ここで問題になるのが コピー です。著作権で保護されているにも関わらず、全く同じもの、もしくは似ているものを別の人が制作して販売したとき ── オリジナルを作った人は、どう感じるでしょうか。
本連載は全 4 回で、この 著作権の二面性 を見ていきます。
コンテンツ市場の現在地 ── まずは規模を確認する
著作権が問題になるのは、その背後に 十分な大きさの市場 があるからです。日本のコンテンツ産業の全体像から見ていきます。

出典: コンテンツ産業の現状と今後の発展の方向性
映像 4.5 兆円、音楽・音声 1.3 兆円、ゲーム 1.5 兆円、図書・新聞・画像・テキスト 4.6 兆円。国内コンテンツ市場は合計で約 12 兆円規模 とされ、ここに著作権で保護されたほぼすべての創作物が含まれます。

出典: コンテンツ産業の現状と今後の発展の方向性
世界に視野を広げると、米国とアジア太平洋が約 6,000 億ドルで競り合い、日本はその約 1/3 規模を維持しています。中国は急速に伸びている最中とされ、コンテンツの 国境を越えた流通 が前提となる時代に入っています。国境を越えるほど、著作権の運用は難しくなります。

出典: コンテンツ産業の現状と今後の発展の方向性

出典: コンテンツ産業の現状と今後の発展の方向性
日本のアニメと家庭用ゲームソフトは、特に 海外収入の比率が高い カテゴリです。アニメは海外収入が国内市場の 1〜2 割、ゲームソフトに至っては国内とほぼ同等の海外収入を稼ぐ年もあります。海外でコピーされたら誰がどう守るのか ── 著作権をめぐる議論はここで一気に複雑になります。
美術・デザインの市場も底堅い
著作権はマス向けコンテンツだけの話ではありません。一点ものを扱う美術市場やデザイン業界にも、同じ問いがそのまま当てはまります。

出典: 【レポート】2015 年美術展入場者数 BEST20
国内の美術展は、トップクラスで 1 日 1 万人前後を集める動員力を維持しています。作品そのものへの需要 は、画像が無料で見られる時代になっても、むしろ底堅いとされます。

出典: シンワアートオークションブリッジレポート
国内美術オークション市場は、震災以降は 緩やかな回復〜拡大 の傾向にあります。コピーが容易になればなるほど、逆に「真正な原本」の価値が上がる側面もあります。

出典: アドビシステムズ(ADBE)2016Q1 決算と株価
Photoshop や Illustrator を提供する Adobe の株価は右肩上がり で、デジタル制作ツールへの需要そのものは増え続けています。コピーを生む技術と、オリジナルを生む技術は、同じソフトウェアの中に同居しています。

出典: 数字が語るこの市場の深層【デザイン市場】
デザイン業全体の市場規模は 2011 年実績で 552 億円 とされ、四半期ベースでも安定して 130〜140 億円前後の売上を維持しています。ここで生まれた図案やロゴが、どこまでが「オリジナル」で、どこからが「コピー」なのか ── オリンピックエンブレム騒動はその境界が一気に可視化された事件でした。
二面性の核心にある問い
連載全体で行き来する核心の問いはこれです。
コピーは、オリジナル制作者から奪っているのか。それとも、文化全体を豊かにしているのか。
デメリット篇は「コピーや二次創作はオリジナル制作者からアイデアと収益を奪う」と前提を置きます。 メリット篇は「コピーや模倣は文化が育つために避けられない営みである」と前提を置きます。
このどちらが「正しい」かは、市場規模のデータだけでは決められません。しかしどちらの前提を取るかで、フェアユースやクリエイティブコモンズといった制度の評価がまるごと変わります。
次の 2 回では、デメリット側の世界とメリット側の世界を、それぞれ独立した記事として書きます。
→ 次の 2/4: メリット篇 ── コピーが作る文化の多様性