学習環境の配分の二面性 ── まとめ篇
家庭負担と政府負担を行き来したあと、本当に問うべきは「教育の目的」だった。学力、幸福度、経済、政治参加、軍事 ── 目的が違えば最適な配分も変わるという視点で連載を締める。
背景篇、家庭負担篇、政府負担篇 と読み進めていただいた最終回です。最後に整理しておきたいのは、メリット・デメリットそのものではなく、「教育の目的」 です。
インプットはアウトプットのために存在する
あくまで教育の インプット(資源:お金や親、学校など) は、アウトプット のために存在します。子どもにどんな人間になってほしいのか、その目的次第で、インプットが適切だったかどうかを判断することができます。
しかし、全ての子どもが良い資源を同じ分ずつ得ることができるわけではありません。「子どもは親を選べない」というように、まず子どもにとって良い親と悪い親は不平等になります。学校もたまたま良い先生に会えたり会えなかったりするでしょうし、インターネットがある時代に生まれてくるかどうかも、ある意味不平等です。
つまり、教育問題は資源配分の限界から生まれている とも言えます。だからこそ、教育をただ問題だと非難するのではなく「うちの子どもはこの目的に集中して育てる」という選択が重要になっていきます。目的が違えば、資源が少なくても良い場合があるからです。
日本の教育基本法はなんと言っているか
ではその目的を洗い出してみたいと思います。まず、日本の教育基本法を見てみましょう。
「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成 を期して行われなければならない。」
太字にした部分が日本の教育の目的であり、これらが達成されていれば原理的には問題ありません。ただ、とても曖昧な気もしますので、以下に具体的な目的とその指標を並べていきます。
目的 1: 幸福度

出典: 内閣府大臣官房政府広報室 世論調査
「どんな生活をしていても幸せならそれでいい」という考え方もあります。この目的で見れば、家庭負担篇で示したように日本の若者の満足度はかなり高いとも言えます。
目的 2: 非認知能力

出典: 書籍「学力の経済学」
近年、学力などの 認知能力 に加え、幸福を感じたり社会に適応できたりする意味で 非認知能力 が注目されています。テストでは測りにくいこちらを目的に据えると、必要なインプットの設計も変わります。
目的 3: 経済成長

出典: 日本の一人当たりの GDP の推移
経済のための教育、という見方もあります。近年は上昇傾向にないため、これを目的にすると 現在の教育は失敗している と見ることもできます。

出典: 労働生産性の国際比較
日本は他の国に比べて労働生産性が低いとも指摘されています。
目的 4: 社会参加・ボランティア

出典: ボランティア活動の実態をグラフ化してみる(2011 年社会生活基本調査)
20 代前半から 30 代前半は、それ以降の世代に比べてボランティア活動が少ない傾向があります。「社会参加できる人を育てる」という目的なら、教育の評価は変わってきます。
目的 5: 学術的成果

出典: List of Nobel laureates by country
ノーベル賞に関しては、アメリカやロシアと比べれば少ないですが、割と受賞しているとされています。学術的成果を目的にするなら、今の日本の教育は一定の成功と言えそうです。
目的 6: 政治参加

出典: 衆議院議員総選挙における年代別投票率の推移
投票率はどんどん下がっており、政治参加という意味では教育は失敗しているとも見られます。
目的 7: 国防

出典: List of countries by number of military and paramilitary personnel
日本ではあまりこの見方はしませんが、選択肢として「国を守るため=兵士」というのも教育の目的にはあり得ます。
目的 8: 社会保障制度の維持

出典: 平成 25 年日本の財政関係資料
社会保障制度を成り立たせるためという目的で言えば、現在の教育は失敗していると見ることもできます。
あなたの子どもにはどんな人間になってほしいか
このように、教育には漠然と「良い人間になるため」だけではなく、色んな目的と指標 が存在するかと思います。
そして、目的次第でどれぐらい教育費や学習環境が必要かは変わってきます。家庭負担が向く目的もあれば、政府負担が向く目的もあるはずです。
さて、あなたの子どもには、どんな人間になってほしいのでしょうか?
そしてあなた自身は、どんな人間を目指して育てられたのでしょうか?そのために使われたお金や環境は、無駄になっていないのでしょうか?
「家庭が出すべき」「政府が出すべき」の二択を急ぐ前に、まずこの問いを行き来してみる ── そのこと自体が、kumoism がこの連載でやりたかったことです。
連載をはじめから:
→ 1/4 背景篇 → 2/4 家庭負担篇 ── 自由と多様性の教育 → 3/4 政府負担篇 ── 平等と一元管理の教育