KUMOism

社会保障の二面性 ── まとめ篇

若者と高齢者がどちらも少しずつ譲り合う第 3 の道。定年延長、投票率の偏り、孤独死、子供の貧困 ── 社会保障の選択を「誰が決めているのか」まで掘り下げる最終回。

背景篇メリット篇デメリット篇 と読み進めていただいた最終回です。最後に、賛成派と反対派の中間、そしてその選択を誰が決めているのかをまとめます。

第 3 の道 ── どちらも少しずつ我慢する

背景篇 で示した 3 つの未来のうち、3 つ目の道についてここで詳しく見ます。

簡単に言えば、若者は多少やりたくなくても収入の良い職業で稼ぎ、高齢者は今よりも寿命を下げて太く短く生きる ── これが第 3 の道です。賛成派の「社会で長生きを支える」と、反対派の「個人の人生は個人のもの」のあいだに、グレーゾーンを置く形になります。

いきなりすべての高齢者を社会が支えたり、すべての若者が稼ぐ義務から解放されたりするというのは極端な話です。あくまでそういう方向性だということですが、年齢区分そのものを動かすという調整があり得ます。

「労働者」と「高齢者」の境目をずらす

企業における定年年齢の推移

出典: 厚生労働省 雇用管理調査

若者にも高齢者にもどちらにも言えるのは、定年と年金受給年齢を上げる ことで「労働者」と「高齢者」の境目をずらせるという点です。

定年年齢は時代と共に少しずつ後ろに動いてきています。これは「働ける高齢者は働き続ける」社会への移行とも、「年金を受け取れる年齢を遅らせる」社会への移行とも読めます。受け取る側から見ればデメリットですが、社会全体としては支え手と受け手のバランスを保つ調整です。

働ける高齢者がもう少し長く労働市場に残り、若者は社会保障費の負担を少しだけ軽くする ── どちらも少しずつ譲り合う中間解とも言えます。

「最後に」── その選択は、誰が決めているのか

ここで一度立ち止まりたい問いがあります。この 3 つの未来のどれを選ぶかを、実際には誰が決めているのか、ということです。

60 歳代の投票率は 74%

出典: 衆議院議員総選挙 年代別投票率の推移

現在、投票率が高いのはどの世代か。言わなくても分かると思いますが、高齢者 です。60 歳代の投票率はおおむね 70% 台で安定しています。一方、20 歳代の投票率はその半分前後で推移しています。

つまり、高齢者たちが、高齢者優先の社会にするのか、若者優先の社会にするのかを選んでいる という構造があります。反対に、若者は投票率が低いため、若者自身の将来を高齢者の判断に預けていることになります。

これが良いか悪いかは、その人の価値観によります。

数字に出てくる「我慢の分布」

さらに穿った見方をすれば、社会保障費に貢献せずに好きなことをしている人は、無意識に高齢者の生活を苦しくしています。反対に、社会保障に甘えている高齢者は、無意識に若者の生活を苦しめています。どちらも、自分が悪意なく取った選択が、他方の世代の生活水準を削っています。

その結果は、孤独死と子供の貧困という形ですでに数字に出ています。

東京 23 区内の自宅で死亡した 65 歳以上の一人暮らし

出典: 内閣府 高齢者の生活環境

家族や地域の支えから外れた高齢者の 孤独死は増加傾向 にあるとされます。社会保障を引き下げた世界では、貯蓄や家族関係に余裕のない高齢者から先に、こちら側に押し出されていきます。

毎年多くの人が自殺をしている (1)

毎年多くの人が自殺をしている (2)

出典: 自殺白書 年齢階級別自殺者数の推移

年齢階級別に見ると、自殺はどの世代にも一定の規模で残っています。経済的困難・孤立・健康問題 がその背景にあるとされ、社会保障の薄い世代・厚い世代の双方で固有の負担がかかっています。

子供の 6 人に 1 人は貧困

出典: 厚生労働省 子供の貧困率

そして、子供の側にも数字は出ています。子供のおよそ 6 人に 1 人 が相対的貧困の状態にあるとされます。社会保障の重心がどこに置かれているかは、最も声を上げにくいこの層の生活に直接響きます。

最後の問い

長生きと現在の自由、どちらを優先する社会で生きたいのか。そしてその選択を、誰が決めているのか。あなたはどちらの前提に立ちますか。そしてその前提が崩れたとき、何を選び直しますか。

「社会で支える/個人で生きる」の二択を急ぐ前に、まずこの二面性を行き来してみる ── そのこと自体が、kumoism がこの連載でやりたかったことです。

そして、もう一つだけ。自分が選ばなかった選択を、他の世代が代わりに選んでいる ── この事実だけは、投票という形であれ、生活の選択という形であれ、忘れないでおきたいところです。


連載をはじめから:

→ 1/4 背景篇 → 2/4 メリット篇 ── 高齢者を支える、働く若者の社会 → 3/4 デメリット篇 ── 若者の自由と、縮む寿命